まず、ファインマンラチェットという装置についてだが、これはリチャード・ファインマンが熱力学の第2法則を説明するために考案した思考実験上の装置である。軸の一方に、一方向にしか回転できないように爪を取り付けた歯車をとりつけ、もう片方には軸を中心に自由に回転できる水車のような羽根車を準備する。そして軸の中心に小さなおもりをつけて、巻き上げたらこの装置が仕事をしたということになる。(上図参照)
今、上図のように歯車のほうの温度をT1とし、羽根車のほうの温度をT2とする。
T1=T2(つまり温度が一様な気体に入れる)のとき、羽根車には分子が乱雑に衝突し、 ブラウン運動として羽根車を左右に揺り動かす。 この運動自体には方向性はなく仕事ができない。 しかし、この羽根車の軸を爪のついた歯車と組み合わせると、ラチェットは一方向にしか回転できないはずなので、これは一方向への回転運動を生み出すと考えられる。だがこれは現実には不可能である。逆方向に回ろうとしたときの爪と歯車の衝突の運動エネルギーが部品や周囲の気体の熱エネルギーに変化しているからだ。また、この装置が熱エネルギーに変化しない弾性的なものであったとしても、爪自体が衝突により振動してしまうので、爪の役割を果たさない。(もしこれで温度差のないところで外部から仕事をすることもなくブラウン運動から一方向の運動を取り出して仕事をなすことができたら、熱力学第2法則 を破ることになり、永久機関になってしまう)
ここで、T1<T2の場合を考えると、羽根車の分子のブラウン運動による衝突の運動エネルギーは上述した歯車の爪の振動よりも大きいため、この装置は回転を始め、仕事をすることになる。そしてT2がT1と同じ温度まで下がると、回転は止まる。(この分のT2の気体のエネルギーは、おもりを上げるのに使われたことになる)
また、T1>T2の場合は、羽根車の分子のブラウン運動による衝突の運動エネルギーは爪の振動に負けてしまうので、回転しない。